リノア×石塚和彦アトリエ
北海道住宅新聞 2024.02.15 掲載
100年以上にわたり快適に使える現代の住まいに、太陽光発電設備を搭載したトレーラーハウスを組み合わせることで、家族構成の変化に対応しつつイニシャル・ランニングコスト削減や、レジリエンス性(防災対応力)の確保も可能に―。今回紹介する空知・南幌町の『みどり野ゼロカーボンヴィレッジ』基本プランは、2LDKのコンパクトな主屋に、トレーラーハウスをプラグインするという斬新な発想の住まいを計画した(株)リノア(札幌市、松澤総志社長)と(同)石塚和彦アトリエ一級建築士事務所(札幌市、石塚和彦代表社員)の『LINKING―連結―「建築×モビリティ」による新しい暮らし』。
リノアと石塚和彦アトリエは、このところ一緒に仕事を行うことが続いており、同ヴィレッジもお互い自然に声をかけあってグループを結成。松澤社長は「石塚さんは柔軟に様々な設計ができるので、一緒に新しいものを作っていける」と信頼を寄せ、一方、石塚氏も松澤社長を「ざっくばらんに自分の意見をしっかり言ってくれるので話し合いや相談もしやすく、お互い信頼して仕事ができる」と話す。
そんな両社が提案する基本プランは、トレーラーハウスを“移動型居住空間”と称し、建物本体(主屋)と一体的に使うことで家族構成やライフスタイルに応じてフレキシブルに居住空間を拡張・縮小できる住まいとしているのが大きな特徴だ。
ゼロカーボンの住まいを建てるにあたってはコストの壁が高く、35~40坪の4LDKにもなると4千万円はかかるが、それでは同ヴィレッジのユーザー層である30代の子育て世帯にとって負担が大きい。そこで両社は、建物本体(主屋)を高断熱外皮とシンプルな設備によるコンパクトな2LDKとし、イニシャル・ランニングコストを削減。将来的に独立して家を離れる可能性が高い子供の部屋や客間などのスペースは、トレーラーハウスを主屋にプラグインすることで確保するというコンセプトでプラン作成を進めていった。
コンセプトが明確になっていたことから、最初に石塚さんが具体的な案を考え、それに対し松澤社長が使用する素材等について提案したと言い、石塚氏は「最近はトレーラーハウスが注目されているが、不動産と動産を住まいとしてセットで提案するのは今までになく、新しい試み」と話し、松澤社長は「100年使える住宅を建てておいて、夫婦2人になった時に減築してしまうのはもったいない。それであれば必要な時にトレーラーハウスで居住空間を増やせるようにし、使わなくなったら欲しい人に売却すればいい」と語る。
プランは、敷地面積が2区画分あるAブロックに対応するものと、1.5画分のBブロックに対応するものを用意。いずれも吹抜けを設けた2LDKの2階建て在来木造の建物を主屋とし、太陽光発電を設置したトレーラーハウス“オフグリッド・トレーラー”を組み合わせる。延床面積は主屋が約25坪(Bブロックプラン)、オフグリッド・トレーラーが約4坪。主屋の周囲には軒下の空間を利用したテラスなどのスペースが多く確保されており、室内から屋外まで生活空間が広がるようになっているのもポイントの1つで、さらに居住空間を広げたい場合には、オプションでトレーラーハウスを追加できるように考えられている。
主屋の拡張空間となるオフグリッド・トレーラーは、構造的に主屋から独立しており、シャシー(車台)の上屋は独自に設計・施工する予定。太陽光発電は壁に最大出力410Wのパネルを5枚、屋根に同315Wのパネルを6枚設置し、合計最大出力は3.94kW。パワーコンディショナーも装備する。「太陽光発電は様々な性能・仕様の製品が出てきているので、将来的により良い製品を使えるよう住宅に固定してしまうよりもトレーラーハウスに取り替えやすい形で設置したほうがいいし、維持管理もしやすい」(石塚氏)。
また、オフグリッド・トレーラーは蓄電池や雨水タンクの設置も想定。災害時にライフラインが寸断された時は安全な場所に移動し、復旧したら戻るなど、住まいのレジリエンス性も確保可能だ。電気自動車(EV車)とV2Hシステムの導入も考えており、太陽光発電で作った電気を大容量バッテリーのEV車に充電することで、さらに災害時の安心感を向上させつつ環境負荷の低減につなげることも構想している。
なお、北方型住宅ZEROの適合要件となる脱炭素化対策のポイント数(P)は、UA値0.28以下で3P、窓の熱貫流率1.2以下かつ日射取得率=η0.3以上で3P、主たる窓に有効なひさし設置で1P、主たる構造材に道産木材等活用で2P、に太陽光発電(壁面設置で2kW以上)で3P、バイオマス利用(薪ストーブ)で1P。合計13Pで適合に必用なP数(10P)をクリアする。概算工事費は約3600万円。
オーナーはまだ決まっていないが、ユーザーからの反応は出てきているといい、松澤社長は「この家に暮らす家族がゼロカーボンやエコな暮らしに触れるきっかけになってほしい。例えばふだん使う電気はどのように作られているのか、太陽光発電の発電量が少ない時は何に電気を使えばいいかといった会話を、家族でアウトドアを楽しみながらできるようになれば」、石塚氏は「このプランが、住まい手の行動やライフスタイルを少しでもエコなものに変えていくためのきっかけになればいい。暮らしの中で何かを節約したり我慢したりするのではなく、住まいに何を取り入れたらどれくらいゼロカーボンやエコな暮らしになるのかを考え、行動変容してもらえたら」と、このプランに関心を持つユーザーへの想いを語っている。
北海道建設部住宅局 建築指導課 企画係・普及推進係
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